4世紀のギリシャ人著述家クセノフォンによると,スパルタ教育を受けていた生徒たちは若者の食欲を十分に満たすには足らない,ごく質素な食事しか与えられなかったという。しかし,将来の兵士となる訓練の一環として,もっと食欲をそそる食べ物を探して定期的にコミュニティー内で盗みを働くことが許されていた。むしろ奨励もされていたという。少年は食べ物を盗んで捕まると,厳しい鞭打ちの刑に処せられた。これは盗んだことに対する刑ではなく,捕まったことに対してのものだった。一方,盗みに成功すると,感心な少年だということになったのである。アルテミスの神殿は無血の食物の捧げ物が常に豊富にあり,食料を求めて行われる強盗の主要なターゲットとなった。神殿から盗んだチーズの記録を塗り替えることが,少年たちの間で有名な競争にまでなっていたという。
ポール・キンステッド 和田佐規子(訳) (2013). チーズと文明 築地書館 pp.100-101
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