エトルリア北部で作られるルナチーズは,その並外れた大きさのゆえ,マルチアリスは『キセニア』の中で上位4位に推薦している。マルチアリスによれば,ルナチーズはエトルリアの月のイメージで,非常に大きく,「奴隷に千食出せるほど」だという。大プリニウスもルナチーズがローマで最も評価の高いチーズの1つであると述べており,454kgからあるという。同じく大プリニウスによれば,ルナチーズはエトルリア国境辺り,北と西に接しているリグリアで作られているということだ。
マルチアリスも大プリニウスもルナチーズの大きさを強調していた。誇張法は古代ではごく普通に行われていたが,これらのチーズが人々の注意を引いたのは,ローマ人の生活を優雅に飾ったやや小さい乾燥したペコリーノチーズやプリーノチーズよりも,明らかに大きかったからだ。非加熱で軽く圧搾し,表面に塩をするというチーズ製法をコルメラは記述しているが,これは小型の熟成チーズとフレッシュチーズの製法には最適だが,これでは大型の熟成チーズを作ることは全く不可能なのである。こうなると「いかにして大型のルナチーズが作られたか」という論点に戻って堂々巡りになってしまう。
ポール・キンステッド 和田佐規子(訳) (2013). チーズと文明 築地書館 pp.147-148
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