牛を1頭か2頭しか飼っていない農家では,チーズ作りに入るまでに,2回か3回の搾乳で採れたミルクを混ぜて使うのが実用的だろう。
涼しいところで貯蔵していたミルクをおよそ85度(摂氏29度)に温め直して,活性レンネットで急速に(約1時間以内)凝固させる方法で,農家のチーズの作り手は水分量の多い比較的酸味の強いチーズを作り出していた。
このチーズを涼しくて湿度の高い環境,たとえば根菜類の貯蔵用地下室のような場所で保存すると,その環境の影響を受けてチーズの表面に酵母やカビの育成が促進される。チーズの水分量と地下室の湿度が高すぎない状態なら,黒カビや青カビでなく灰色と白いカビがよく生育する。オレンジ色の色素を持ったコリネバクテリア菌状のバクテリアが後からチーズの表面にコロニーを作ることもあり,これは酸度を減少させるイーストやカビの作用による。農家の作るこのタイプのチーズは,たとえばブリー・ド・モーのような伝統的白カビチーズにいくらか類似するものだったと思われる。
ポール・キンステッド 和田佐規子(訳) (2013). チーズと文明 築地書館 pp.181
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