ワイマール後期からナチス時代の法哲学者で,憲法学者でもあるカール・シュミット(1888-1985)というドイツ人が,面白いことを言っています。敵と味方がはっきりしない混沌とした状況下では,敵と味方がはっきり分かれるようなことをすぱっと言って,味方を固めるのが,政治の本質だと言うのです。
それは逆に言えば,「敵」をつくることです。日本的な政治のイメージとは違いますね。ドイツ人だって,無闇に「敵」をつくりたいわけではありません。でも,全部味方にしようと思って,緩いことばかり言うと,味方の結束が弱くなる。敵をうまくつくって,それに対抗する形で,味方の結束力を高める方が有効だと,シュミットは見たわけです。ほんとうの政治家というのは,国家の危機状態にあって,「これが敵なんだ」とうまく味方に示して,それとの対比で「味方」のイメージをはっきりさせ,味方の同質性を基盤にした「国の形」を示せる人のことだというのです。
仲正昌樹 (2006). ネット時代の反論術 文藝春秋 p.80-81
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