バージニアコモンウェルス大学の臨床心理学の名誉教授であるケント・ベイリーは後者のゲーム理論説を支持し,さらに進めて,近い祖先集団の内部や集団間の暴力的な競争が,サイコパシー(ベイリーの言う「タカ派戦士」)の進化の先駆けだったと主張する。
ベイリーによれば,「ある程度の捕食性の暴力」が「大型獣の狩りにおいて,獲物を探し出してしとめるという側面では必要だった」のではないか——そしておそらくは,無慈悲な「タカ派戦士」のエリート集団は,獲物を追跡してしとめる戦力としてだけでなく,近隣の他集団からの侵略をはねつける防衛軍としても好都合だったのかもしれない。
もちろん問題は,タカ派戦士を平時に信用できるかどうかだった。 オックスフォード大学の心理学および進化人類学教授であるロビン・ダンバーもベイリーの説を支持している。ダンバーは9世紀から11世紀にかけての古代スカンジナビア人の「猛戦士(ベルセルク)」を引き合いに出す。ベルセルクはサーガや詩や史料によれば,英雄視されるバイキングの戦士で,残忍な,怒りに我を忘れた状態で戦ったらしい。だがもう少し掘り下げてみれば,より不吉な図が浮かび上がってくる。本来は守らなければならないはずの共同体のメンバーに牙を剥き,同胞に対する野蛮な暴力行為に走る危険なエリートたちの図だ。
ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.38
PR