それを突き止めるべく,バーテルズとピサロは200人を超える学生にトロッコの問題を提示し,大柄の男を突き落とすという選択肢をどの程度支持するか——どの程度「功利主義」か——を4段階で自己申告させた。それからトロッコの問題に加えて,学生に潜在的サイコパシー度を測るためのさまざまな検査を受けさせた。「殴り合いのけんかが見たい」「人を操るには相手が聞きたがっていることを言うのがいちばんだ」といった設問だ(そう思う/思わないを10段階で回答)。
サイコパシーと功利主義というふたつの概念を結びつけられるだろうか,とバーテルズとピサロは考えた。答えは明らかにイエスだった。ふたりの分析の結果,トロッコの問題に対する功利主義のアプローチ(大柄の男を橋から突き落とす)と,サイコパシー傾向が非常に強い人格とのあいだには重要な相関関係があった。ロビン・ダンバーの予測からすれば,かなり的を射ている結果だが,功利主義に対する従来の見解では,いくぶん問題がある。功利主義の理論を定式化したとされる18〜19世紀イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムとジョン・ステュアート・ミルは,だいたいにおいて,善良な人物と思われている。
「最大多数の最大幸福はモラルと立法の基礎である」とベンサムが明確に表現したことは有名だ。
ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.45-46
PR