こうした疑問をいだいて答えを探しはじめた人間に,心理学者のピーター・ジョナソンがいる。2010年,ジョナソン(当時はニューメキシコ州立大学に勤務)と同僚たちは「ジェームズ・ボンドは何者か——闇の三位一体と工作員的社交スタイル」と題する論文を発表した。それによれば,特有の人格的特徴の三位一体(ナルシシズムの特徴である人並はずれたうぬぼれの強さ。サイコパシーの特徴である恐怖心の欠如,非情さ,衝動性,スリルの追求。マキャベリズムの特徴である不実さと,人を食いものにすること)を備えた男性は,じつは社会の一定の階層では独力で大成功できる。しかも,そうした特徴の度合いが低い男性に比べて,性的な関係にある相手の数が多く,行きずりの短い関係を好む傾向が強い。闇の三位一体は相手が男性ならハンデになるが,相手が女性なら,かえって心拍数を増加させ,遺伝子の増殖の可能性を増大させるかもしれない,とジョナソンは主張する。
ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.147-148
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