オーストラリアのメルボルン大学のブルース・ヘディとアレクサンダー・ウェアリングは1989年に発表した研究の中で,「人がどんな経験をするかは気質に影響される」ということを示唆した。2人はヴィクトリア州の住民に数年がかりで聞き取り調査を行い,人が感じる幸福度に「出来事」と「気質」のどちらがどのくらい影響をおよぼすかを解明しようとした。幸福度の(たとえば)40パーセントは気質に,残る60パーセントは起きた出来事に起因するかもしれないし,逆にもともとの気質のほうが出来事より重要な可能性もあると,2人は予測していた。
だが2人の研究者はまもなく,「気質と出来事は,それぞれ別個に幸福度に影響する」という前提そのものが誤っていたかもしれないことに気づいた。調査が進むにつれ,同じような出来事が同じ人の身に繰り返し起きていることがあきらかになったのだ。幸運な人には何度も幸運が訪れていた。いっぽうで,別離や失業など不運に何度も見舞われている人もいた。そして,楽観的な人はポジティブな出来事を,悲観的な人はネガティブな出来事をより多く経験していた。気質と出来事が別個に幸福度に影響するというのはどうやら誤りで,気質はむしろ,起きる出来事に強い影響を与えているようだった。
エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.21
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