ミネソタ大学の心理学者マーク・スナイダーは多くの実験から,信念が自己充足的な予言になることを確認した。たとえば,初対面の人に会うときに,その相手が神経質だという情報を事前に聞かされていたら,その人物の行動の中でいかにも心配性に見えるところばかりが目についてしまうものだ。これを証明するためにスナイダーは被験者を2人ひと組でペアにし,何人かには「ペアを組んだ相手が外向的な性格かどうか」を判断するように指示し,何人かには「相手が内向的かどうか」を判断するように指示した。
相手が外向的な性格かどうか見極めなければならず,しかも質問はわずかしかしてはいけないとしたら,何をたずねるべきだろうか?もしもあなたがスナイダーの被験者と大差ないとしたら,おそらくこんな質問を口にするはずだ。「パーティを盛り上げるためにあなたなら何をしますか?」「大勢の初対面の人々と会うのは楽しいですか?」。だがよく考えてほしい。これで肝心の情報が集まるものだろうか?これらの質問は,単に疑問を確認する役目しか果たしていない。だが,被験者同士のやりとりをスナイダーがビデオテープで検証したところ,質問者がこの種の質問に頼りがちなのはあきらかだった。
<内向型>グループの質問者の大半は,「もっと社交的になりたいと思う時はありますか?」などの質問を相手に投げかけていた。スナイダーいわく,このときほんとうに必要なのは反証的な証拠なのに,「人々は確認的な証拠ばかりを探そうとする傾向がある」のだ。
エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.51-52
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