ジャーナリストのバーバラ・エーレンライクは著書『Smile or Die』の中で,現代社会にはびこるこの手の(彼女いわく)ポジティブ思考カルトを痛烈に批判している。エーレンライクは乳がんの診断を受けたとき,この種のカルトの冷酷さを思い知ったという。病名を告げられるや彼女のもとには,この経験は「きっとあなたを変えてくれる」「人生の意味を見いだすチャンスだ」「神に目覚める助けになる」などの「ポジティブな」メッセージが山のように寄せられた。
恐ろしい病気に直面しているのに,それに感謝せよとアドバイスされ,彼女は強い反感を覚えた。「ポジティブに考えてさえいれば,事態は良くなる」わけが,あるものだろうか?ポジティブ思考は万能だなど,幻想にすぎないとエーレンライクは冷徹に観察し,批判する。彼女はこの点,まったく正しい。楽観主義とは往々にして,人が表層レベルで何を考えるかよりも何を行うかに,そして脳がどう反応するかに深くかかわっている。それは科学的な調査結果からも裏づけらている。
エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.83-84
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