こうした発見により,分子生物学のしくみは根本的な見直しを促されている。エピジェネティクスの作用によって何かの資質が次代に受け継がれるのは,ミバエだけに限った話ではない。植物でも動物でも菌類でも,そしてヒトにおいてさえも同じことが言える。たとえば,わたしの曾祖母が高脂肪な食生活をしていたら,わたしが肥満になる確率は高くなるのだろうか?答えはどうやら,あきらかに「イエス!」のようだ。
ペンシルバニア大学の神経科学者,トレイシー・ベイルが行った実験では,妊娠しているマウスに非常に高脂肪のエサを与えたところ,予想通り,その子どもは誕生時からすでに体長・体重とも平均を上回り,インシュリンに対する反応度も低かった。これらは肥満と糖尿病の危険因子として知られる特徴だ。これらの幼いマウスは高脂肪のエサはもう与えられていないのに,成長して妊娠すると,やはり体重が重くインシュリンに反応しにくい子どもを生んだ。さらに2世代後でもやはり,平均より体重が重く平均より食事を多く食べるマウスが誕生した。ペイルが2008年に神経科学協会の会議で発表したように,「あなたは,あなたが食べたものだけでなく,あなたの祖母が食べたもので作られている」のだ。
エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.188-189
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