その30年前,ハドソン・ホーグランドというアメリカ人心理学者の妻が,インフルエンザで寝込んでいた。夫はかいがいしく看病していたが,妻は自分がいてほしいときには,いつも夫が部屋の外にいてなかなか戻ってこないと文句を言った。実のところ,彼が部屋を離れていたのは,ほんの数分だった。妻の経験する時間がゆがんでいるのではないかと考えた彼は,チャンスとばかりに,時間知覚と体温についての実験を行ってみることにした。妻の体温は大きく変動していたので,体温計の数値が変わるたびに,1分間を頭の中で計るよう頼み,同時にそれをストップウォッチで正確に計測した。そして確認のため,時間計測作業をさらに5回行うよう,妻を説得した。その結果,病気の妻はこの実験のために,48時間で30回の計測を行なった。
このとき彼が発見したのは,わけもわからず1分を評価するという夫の頼みを受け入れた妻の忍耐強さだけでなく,体温が高いときほど,実際よりも早い時間で,1分が過ぎたと妻が感じたということだった。つまり時間の流れが遅くなったのだ。体温が39.4度に達したとき,妻はたった34秒で1分が過ぎたと答えた。
クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.40-41
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