新しい体験に満ちた生活を送っている7歳の子供を例にとって考えてみよう。すでにわかっていることだが,この子は大人に比べて時間がゆっくり過ぎると感じている。それがなぜかを理解するために,この子が時間の流れを予期的,追想的にどのように感じているか改めて考えてみよう。子供の場合は大人よりもパラドックスが生じることは少ないのだが,それは予期的に見ても時間が引き伸ばされる場合があるからだ。子供の生活は大人に比べてはるかに自由が効かないうえ,やりたくもないことをやらされる時間が多い。あなたも子供のころに,いつ終わるともしれないドライブ旅行に連れて行かれたことや,退屈なレッスンが早く終わらないかと思いながらいたずら書きをしていたことがあるだろう。その反対に楽しいことをしているとき,夢中になった子供は大人より充実した時間を過ごせるようだ。子供はビニールプールで新しい遊びを考えたり色々なことを試したりして,大人には真似できないほど何時間でも楽しく過ごしていられる。そんなときの時間の流れは速くて,速すぎると感じるくらいだ。彼らはプールから上がって昼食を食べなさいと言われて驚く。そばで見ている親にとっては,時間がゆっくりと流れていたが,遊びに夢中な子供たちは,あっという間に時がたったと感じていたのだ。夜になって寝る時間が近づくと,さらに時間は速く流れ,あと1回だけゲームをさせて,あと少しだけ遊ばせて,あと1つだけお話をして,と懇願することになる。子どもたちが経験するこの現象はホリデー・パラドックスの変形版で,予期的な時間の見方が大人に比べて未熟なために複雑化したものだ。子供の毎日は新しい経験に満ちているので,急いで学校へ行くように親から言われても,どんな探検のチャンスも逃したくない。道路工事をやっていれば立ち止まって眺め,犬に出会えば頭をなで,変わったことがあればすぐに見つけて,何でもやってみようとする。敷石の割れ目を踏まないように跳んで歩いたり,でこぼこした塀に登ってその上を歩いたりできるのに,なぜ歩道を歩く必要がある?つまり,子供の生活には退屈なことを無理やりやらされて時間がゆっくり流れるときも少しはあるが,全体として見れば,大人の休日と同じように面白いことにあふれていて,新しい記憶がたくさんあるため,あとで振り返ると1ヵ月,1年が引き延ばされているように感じるのだ。
クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.184-185
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