子供たちが10代半ばになるころには,思い出の隆起が作動し始める。学校の課題や試験勉強によって時間が引き延ばされることはあるが,こなさなければならない日課はしだいに減っていき,自由が増えて,それから間違いなく初体験の数々がやってくる。始めてのセックス,初めてのお酒,初めての恋,初めて故郷を離れ,自分の行動やあり方を初めて自分で決める。前述したとおり,この時期にはアイデンティティが確立されるため,これらの初体験は記憶にしっかりと刻まれてすぐに思い出せる。この時期の記憶が特に鮮やかなのは,新たに確立したアイデンティティの強化に役立てるためだと述べたが,私の意見としては,それ以外にも,成人の仲間入りをするこの時期が,追想的に時間を計るときの基準になることも原因の1つだと思う。数えきれないほどの新しい出来事に出会う時期は少なくとも20代半ばまで続き,そのころには私たちは記憶の数から時間の長さを判断するようになっている。
クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.185
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