作業にかかる時間を過小評価するこの傾向は,“計画錯誤”と呼ばれる。その原因は,すでに述べた,将来を考えるときの性質にある。それは細部を考えないということだ。遠い将来を考えるときほど,私たちは細部を無視する。ところがおもしろいことに,誰か他の人の将来を考えるときは,細部まで考えるのだ。自分以外の人が何かをしようとするときは,その人が同様の作業をしたときはどのくらい時間がかかったか,そして途中で妨げとなりそうな要素もいろいろ考える。病気,思いがけない友人の訪問,疲労など。ところが自分が何かしようとしているときは,そうした情報をすべて無視して,その作業の本質だけを考える。これを最もよく実証した実験のよいところは,架空の状況を使わなかったことだ。架空の状況下の実験では,人が実際にそうふるまうかどうか確かめる術がない。その実験を行なった研究者は,論文を終わらせようとしている学生を対象にした。すると他の学生が論文を終わらせるのにかかる時間は,かなり正確に予測した。しかし自分の論文となると,たまに以前の経験を持ち出すことはあったが,正確な予測はできず,楽観的な予測の理由を説明しようとするばかりだった。彼らは過去に,自らの意欲が思いがけない出来事で邪魔されたことを,すべて忘れてしまっているようだった。
クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.225-226
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