第1に,サイコパシーの中核を成す特性——才能とも呼ぶべきもの——が,企業にとっては求職者の資質として魅力的に見え,採用の決め手になるからだ。サイコパスはチャーミングで,ベテランの面接官さえも自分のペースに巻き込んでしまう巧みな話術を持っている。自分に有利になるとあれば,持ち前のカリスマ性を発揮して,人一倍警戒心の強い人間をも油断させ,だますことができる。不覚にもサイコパスと結婚してしまった人が,後になって相手の策略と虐待と苦痛の網にかかったと気づくように,企業もまた,誤った採用決定を下し,後々厄介な事態に陥ることがある。世間の目を欺くことに長けたサイコパスにとって,採用面接は自分の才能を発揮できる格好の機会だ。
第2の理由は,採用担当者が,サイコパス特有の態度に“リーダーとしての適性”があると思い込み,本性を見抜けないまま雇ってしまうことにある。たとえば,采配を振る,決断を下す,他人を意のままに動かす,といった要素は,リーダーや経営者に求められる典型的な特性だが,じつはそれが,周囲を威圧し,支配し,欺く姿勢を覆い隠す体裁のよい包装にすぎない場合もある。型どおりのリーダーシップという化けの皮の下に隠れたパーソナリティの内部作用を見抜けないと,取り返しのつかない採用決定をすることになる。
第3に,ビジネスそのものの質の変化が,サイコパスの採用を促したともいえる。20世紀初頭,多くの職業が相互に関連するようになり,それに携わる多数の従業員の作業を調整し,効率を高める際に生じる問題解決のビジネスモデルとして,“官僚主義”が発達した。競争が複雑化するにつれて,企業を支える体制が複雑化し,下部組織の規模も拡大した。その結果,官僚型組織の常として,従業員数が膨れ上がり,業務プロセスや手順が煩雑になり,コストも増加した。その結果,官僚体制は非効率だという悪評を買うようになった。
ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.3-4
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