サイコパシー(精神病質),ソシオパシー(社会病質),反社会性パーソナリティ障害(APD)は,しばしば混同される。一般人,専門家を問わず,それぞれ置き換え可能な用語として扱う場合もあるが,症状に関連性はあっても,特徴がまったく同じというわけではない。
サイコパシーは本書のテーマの根底を成す性質や行動に特徴づけられるパーソナリティ障害であり,サイコパスは良心も,他人への共感,罪悪感,忠誠心も持たない。
ソシオパシーは精神疾患を示す正式な用語ではない。一般社会で反社会的行為や犯罪行為をみなされる態度や行動パターンを総称する言葉である。反社会的と言っても,当人が育った社会環境や文化のなかでは正常,あるいは当然とみなされる行為もあり,その点では,ソシオパスは十分な善悪の判断力も,他人への共感,罪悪感,忠誠心をもつ能力も備わっているといえる。ただ,自分の属する文化やグループの規範や予測に基づいて善悪を判断する傾向があるというだけだ。犯罪者にはソシオパスが多いといえるかもしれない。
アメリカ精神医学会が発行した『DSM-IV 精神疾患の診断・統計マニュアル』(American Psychiatric Association著,高橋三郎訳,医学書院)を見ると,APDの診断項目は多岐にわたっている。診断基準の中心は反社会的行動や犯罪行動であり,その意味ではソシオパシーに類似している。APDの症状がある人の一部はサイコパスだが,大多数はそうではない。サイコパシーには他人への共感の欠如,誇張癖,情緒の乏しさがあるが,APDの診断基準では,これらの特性は必須項目ではない。
一般社会においても刑務所においても,APDはサイコパシーよりも3,4倍多く見られる。ソシオパシーと判断される者の比率は不明だが,APDと比較すると,ソシオパシーのほうがかなり多いと推測される。
ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.37-38
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