第1に,サイコパスは他人の心理を読み取ろうとする意欲が旺盛で,その能力が高く,しかも,相手の好き嫌い,目的,要求,欠点,弱みを短時間で見抜くことができる。人には,そこを突かれると過剰反応してしまう“つぼ”があるものだが,サイコパスは一般の人に比べて,つねに相手のつぼを刺激してやろうと待ち構えている傾向がある。
第2に,多くのサイコパスは優れた話術を持っている。たいていの人が感じる社会的な遠慮をすることなく会話に飛び込んでくるので,実際以上に話し上手に見えるのだ。人は話の中身よりも話術の巧みさに引かれる傾向があるという事実をうまく利用している。会話に中身がなく,誠意が感じられなくても,自信と迫力に満ちた話しぶり——専門用語,決まり文句,美辞麗句を散りばめることが多い——でそれを補うのだ。このテクニックに,自分はどんなことをしても許される人間だという思い込みが加わり,サイコパスは,相手について知りえたことを,会話の中で効果的に使うことができる。相手を感化するには何をどんなふうに言えばいいのかを心得ているのだ。
第3に,サイコパスは周囲に与える自分の印象を自在に変えられる。他人の心理を読む力と,深みはないが説得力のある話術の巧みさをもってすれば,状況や作戦に応じて表向きの人格をいかようにも変えることができる。つき合う相手によって仮面を次々につけ替え,変身を繰り返す。そして,狙いをつけたターゲットに好かれるように振る舞うのだ。サイコパスは,ナルシストの目には,注目を集めたいという願望を満たしてくれる人のように映り,心配症の人の目には,安らぎを与えてくれる存在に映るだろうし,多くの人にとって,サイコパスは一緒にいて愉快な存在なのだ。自分の性格や弱みにつけ込んでいると疑う人はほとんどいないだろう。だが,人生という大勝負で,サイコパスはあなたの手持ちのカードを読み取ったうえで,ペテンにかけるのだ。
ポール・バビアク&ロバート・D・ヘア 真喜志順子(訳) (2007). 社内の「知的確信犯」を探し出せ ファーストプレス pp.59-60
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