たとえば米国では,ほとんどすべての人間が宗教的原理主義者かニューエージ神秘主義者,あるいはその両方ではないかとさえ時には思えてくる。そうでない人々でさえ,まず,あえてそのことを認めようとはしないだろう。たとえば,世論調査は,米国の全人口の98%が神を信じ,70%が死後の生命を信じ,50%が人間の念力を信じ,30%が自分の人生が星座によって直接に影響を受けていると信じ(そして70%が,万一に備えて星占いに従い),20%がエイリアンに誘拐される危険があると信じていることを裏づけている。
問題は----子供の教育にとっての問題という意味で----,単に,それほど多くの人間が現代的な世界観と真っ向から矛盾するような事柄を積極的に信じているというだけでなく,それほど多くの人間が科学的な世界観の絶対的な核心であるような事柄を信じていないことにある。昨年[1996年]発表されたある調査は,アメリカ人の半分が,たとえば,地球が1年をかけて太陽のまわりを回っていることを知らないことを示していた。分子が何であるかを知っているのは10分の1以下であった。半数以上の人間が,人類が動物の祖先から進化したことを受け入れず,進化が----かりにそれがあったとして----何らかの外部的な介入なしに起こりえたと信じる人間は10分の1以下である。人々は科学の成果を実際に知らないだけでなく,科学がどういうものであるかさえ知らないのだ。どういうものを科学的方法として認めるかと質問されたとき,わずか2%だけが,それには理論を検証にかけることが含まれることを認めた。34%はそれが実験と測定にかかわるものであることを漠然と知っていたが,66%は見当さえもっていなかった。
ニコラス・ハンフリー 垂水雄二(訳) (2004). 喪失と獲得 進化心理学から見た心と体 紀伊国屋書店 p.337-338
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