重大な犯罪が起きたとき,新聞やテレビのニュースで,「まだ容疑者は反省の言葉を述べていません」「残虐な事件を起こしておきながら,まったく反省している様子はありません」といった言葉をよく耳にします。こうした報道を聞くと「あんなひどいことをしたのに,反省していないなんて,なんてひどい奴だ」「絶対に許せない」と怒りを覚えたことのある人は多いのではないでしょうか。
しかし,これまで述べてきたように,自分が起こした問題行動が明るみに出たときに最初に思うことは,反省ではありません。事件の発覚直後に反省すること自体が,人間の心理として不自然なのです。もし,容疑者が反省の言葉を述べたとしたら,疑わないといけません。多くの場合,自分の罪を軽くしたいという意識が働いているか,ただ上辺だけの表面的な「反省の言葉」を述べているにすぎません。そのように考えると,犯罪を起こした直後に「反省の言葉」を繰り返す犯人(容疑者)は,反省の言葉を述べない犯人よりも,「より悪質」という見方ができます。もちろん捕まったショックが大きくて落ち込んでしまい,謝罪の言葉しか浮かばないという場合もあるでしょう。しかしその言葉も反省とは違います。あえていえば,やはり後悔です。とりあえず「すみません」と言っておこうという点では,私が接触事故を起こしたときの言動と心理的に大差はありません。
岡本茂樹 (2013). 反省させると犯罪者になります 新潮社 pp.25-26
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