この気の毒な事態にさらに追い打ちをかけたのが,長期大型プロジェクト遂行のために研究費から雇用した,多数の若い研究者の処遇問題である。政府は,大型プロジェクト終了までに,これらの若い研究者に新しい勤務先を紹介し就職させるよう,研究代表者に厳命し,もし世話をしきれない若い研究者がでたら,研究代表者が東京大学から支給される講座研究費を彼らの給与として充当せよ,と指示したのである。
文部科学省(実態は財務省)からの巨額の研究費には,研究補助者を一時的に雇用する人件費(1人あたり年額600万円)が含まれている。近年の分子遺伝学の隆盛により,世界各国の研究者数は激増しており,わが国でもこの分野の研究を志望する若者が多い。このような若者は,幸運に巨大プロジェクトの研究補助者に採用されても,従来の大学の大学院生のようなゆとりのあるトレーニングを受けられる保証はなく,プロジェクトが終わればこのように使い捨てにされ,放り出されるのである。
杉 晴夫 (2014). 論文捏造はなぜ起きたのか? 光文社 pp.143
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