医者のなかには,医者以外の医療職などを下にみる人が多い。看護師や薬剤師,臨床検査技師などに横柄な態度をとる医者は多い。同じように,医者にとって,医師免許のない研究者は,身分が下の使い勝手のよい労働力となる。
それが証拠に,どんなに業績があっても,医師免許のない研究者を出世させない教授も多い。医学部などで医師養成教育に携わるのは医者でなければならない,という論理はもっともらしい。けれど,それは事実上身分の差をつけていることになるのではないか。
また,医者は医者ではない研究者のキャリアの現状を理解できない。ある大学の医学部出身の学長が,ポスドクの就職難の問題のことを「詳しくは知らない」と言っている場面に遭遇したことがある。医者は条件を選ばなければ,職にあぶれることはない。だから,若手研究者の就職状況が厳しいことをあまり理解できないのだ。
だから,ピペドとして搾取されるだけされて,置かれている厳しい状況を理解もされず,指導もされず,そして,キャリアアップの講座への出席が許されないなど配慮もされず放り出される医学部や医者が主催者の研究室のピペドは,上司が医者でないときよりも深刻な状況に陥る。
榎木英介 (2014). 嘘と絶望の生命科学 文藝春秋 pp.41
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