「アダルト・チルドレン」という言葉は,精神科医の齋藤学氏によって広められた言葉である。一時流行語にもなったので,意味はよく知らなくても多くの人が耳にしたことはあると思う。このアダルト・チルドレンという言葉は元来遺伝学研究のための用語であり,「アルコール依存症患者の成人した子供」を意味する。ここには特別な心理学的な意味は与えられていない。
ところがこの純粋に遺伝的な概念に,しだいに別の意味合いが付与されるようになった。これが一般的なアダルト・チルドレンの概念である。つまり「アルコール依存症という問題を抱えた家族の中で成長した大人」ということである。アルコール依存症という問題によって様々な家族内の問題が生じ(酒乱の父親による家族に対する暴力というような光景が最も古典的なものだろう),その中で成長した子供は心理的な欠陥を持っているというのがその内容である。
齋藤氏はこの概念をさらに拡大させた。これが流行語としてのアダルト・チルドレンとなった。齋藤氏によるアダルト・チルドレンは,「親との関係で何らかのトラウマを負ったと考えている成人」である。親はアルコール依存症である必要はない。それどころか,表面的には真っ当に見える社会人でもいい。親から何らかの心理的な外傷体験(いわゆるトラウマ)を受けた場合,あるいは家族間の諍いが見られ家族の機能が十分に働かなくなった場合,子供がアダルト・チルドレンになるという。
岩波 明 (2006). 狂気の偽装 精神科医の臨床報告 新潮社 p.41-42
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