加工しなくても,ウソはつける。何十回も何百回も実験を行って,たまたま自分のたてた仮説にピッタンコの写真がとれた。そういう写真を「チャンピオンデータ」と呼ぶ。いわば「奇跡の1枚」みたいなものだ。何百回に1回だけ,といったように,非常に頻度が低いデータだ。
しかし,たまたま出たチャンピオンデータだけを貼り合わせると,あたかもその仮説が証明されたかにみえてしまう。たとえて言うならば,非常に写りのよい,たまたま撮影できた「奇跡の1枚」を使ってお見合い写真を作るようなものだ。決してウソではないが,普段の姿からはかけ離れている。
このチャンピオンデータだけをつなぎ合わせた論文が結構多いのではないか,という声を聞く。これは画像の切り貼りほど露骨ではないので,発覚しにくい。論文を再現しようと思ってもなかなか再現できない,といったことで,次第に論文が引用されなくなり,歴史の闇に消えていく可能性は高い。
しかし,その論文を再現する手間が無駄になり,その論文を他の論文が引用することで誤った研究が行われてしまう可能性があり,害は大きい。
榎木英介 (2014). 嘘と絶望の生命科学 文藝春秋 pp.171-172
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