それ以前のアメリカでは,両親はたいてい小さな子どもと同じ部屋や,同じベッドで寝ていたのだが,ホルトは陣頭に立って,子どもを別室で寝かせる改革運動を推し進めた。赤ちゃんを親の寝室で寝かせてはなりません。良い育児に必要なのは,よい衛生環境と清潔な手,ごくわずかな触れ合い,そして空気と太陽です——あなたがた両親から離れた空間が必要なのです。それはすなわち,愛情あふれる身体的接触もご法度ということだった。ホルトは問いかけた。子どもにキスをするほど悪いことがあるでしょうか?両親たるものが,唇という悪名高き感染源で赤ちゃんに触れることを本当に望んだりするでしょうか?
親たちはそのような接触禁止に疑問を抱いただろうが,ホルト一派は抱かなかった。1888年に刊行された『妻のためのハンドブック』(赤ちゃんをうまく扱うためのヒント集)の中で,医師のアーサー・アルブットも,母親との接触によって感染症が持ち込まれるおそれがあると警告し,本当に赤ちゃんを愛しているなら注意深く距離を保つべきだと述べている。子どもは「死ぬためではなく,生きるために生まれてきた」のだから,触れる前には必ず手を洗い,過剰な接触で「甘やかして」はならない。そうすれば,「それ」——その本では,赤ちゃんは常に「それ」と呼ばれている——は成長し,「社会に役立つように」なるだろう。
デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.54
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