棒を振り回すオマキザル,レッドの物語のもっとも興味深い点のひとつは,ハリーがそれを公表するまでに非常に長い期間を要したということである。観察されたのは1936年のことだったが,その報告が発表されたのは1961年だった。彼は,「論文の著者たちが,自分の評判が確立する前にこの奇妙な観察を報告するのをためらったせいで,発表が遅くなってしまった」と説明している。ハリー・ハーロウが霊長類研究所を建てた当時,動物の知性という言葉は矛盾した表現だった。なんといっても,当時は条件反応や単純で反射的な脳という概念が主流の時代だったのである。動物が「棒は有用な武器である」と判断したとなれば,思考や推定ができるということになる。1930年代に,そのような認知能力がサルにあるなどと報告すれば,「観察がずさん」か「考えが甘い」のどちらかの烙印(あるいは両方)を押されるのがオチだったろう。
デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.124-125
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