ひとつのケージに1匹のサルを収容するという標準的な飼育環境によって生じたのが自滅的な行動ならば,完全な隔離からはさらに悪い結果が生じた。それが精神異常だったのである。言うまでもなく,これらのほとんど麻痺した状態のサルたちは,正常な性的関係を結ぶことができなかった——というより,どんな関係も結ぶことができなかった。研究室のメンバーが機能不全の雌を縛りつけて「受け入れ」の体勢をとらせてみると,ただでさえ不安定なサルの数匹を妊娠させることができた。その結果は,「社会的知性」を持たない動物がどれほど危険になりうるかを,このうえなく知らしめるものだった。「もっともひどい悪夢の中でも,ここに実在する母ザルほど邪悪な代理母を設計することは不可能だろう」とハリーは書いた。「愛というものをまったく経験したことのないこれらの母ザルは,赤ちゃんに対する愛情を欠いていた。残念ながら,人間の場合でも,その感情が欠如した人があまりにも大勢いる」。愛のない母親のほとんどは,子ザルを無視するだけだった。しかし不幸なことに,全員がそうだったわけではない。ある母親は,赤ちゃんの顔を床に押しつけ,手足の指を噛みちぎってしまった。もう1匹は,赤ちゃんの頭を口の中に入れて噛み潰してしまった。それが強制妊娠の結末だった。
デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.285-286
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