ほめるという行為は,本来,自然な気持ちのあらわれです。「ほめる教育」におけるほめるという行為は,この点において異なります。自然な気持ちのあらわれなどではなく,ほかのねらいをもったきわめて意図的な行為です。
相手の活動・行動・行為あるいはその結果に感心して,「じょうずだね」「おもしろいね」「すごい!」「よくがんばったね」などとほめるのは,自然な気持ちのあらわれです。本心からそう思い,そしてそれを言葉にしてあらわしているにすぎません。なにか別の意図やねらいがふくまれているわけではない。なにかのためにほめるのではなく,ほめたいからほめるのです。
それにたいして,「ほめる教育」の場合には,ほめることそのものは本来の目的ではないのです。本来の目的は,ほめることを通して相手に影響をあたえることです。相手の心と行動に影響を与え,やる気を出させたり,自信をもたせたり,伸びていくようにする----。つまり,こちらが望んでいるような方向へと向かわせることがねらいなのです。そういう意図のもとにほめるわけです。いわば,下心のある行為です。本心からほめることとは,明確に区別される行為なのです。
伊藤 進 (2005). ほめるな 講談社 p.82-83.
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