ハリー・ハーロウもジョン・ボウルビーも,こうした強い反発にうまく対応できなかった。ボウルビーは苛立ち,如才なく振る舞おうとはしなかった。「母親が外へ働きに出るというこの問題全体がひどく物議を醸しているが,私は母親が外で働くのが良いことだとは思っていない。女性が働きに出て,社会的価値もない七面倒臭いガラクタをこしらえている間,子どもは無関心な保育園に預けられるのだから」。ハリーも大げさな表現を使って反撃した。赤ちゃんザルのスライドを大学生に見せたときに起こった出来事について,彼は何度も繰り返し語った。男子学生は興味を持って赤ちゃんの顔をじっと観察した。しかし,女子学生はあまりの可愛さに「ああ」と溜息を漏らしたのである。ハリーは,それが自然な母親の反応であると断言した。「何度も言っているように,母親になるいちばんの方法は,女性に生まれることだ」
ハリーの最後のコメントは故意に挑発的だった。母子の絆など本当は重要ではなく,女性蔑視のための科学的な作り話だという意見には我慢ならなかった。いずれにせよ,時流に合わせるとか,時宜を得た発言をするなど,彼はそれまで気にしたこともなかったし,今さら迎合する気もなかった。
デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.307
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