近ごろの医学では,何でも病気にしてしまう傾向がある。これは現代社会が抱える大きな問題だ。たしかに運動をすれば病気や若死にのリスクが減るというのは事実であり,それを裏づける信頼できる調査結果も存在する。運動をすれば太りすぎが解消されたり血圧が下がったりして,それが健康につながるからだ。
そこで医学界は,正常と異常をわける基準を作り出した。たとえば血圧という数字は,病気を決める基準になりうる。たしかに血圧が高いほど心臓病や脳卒中のリスクが高くなるからだ。そのため正常値とされる数字がどんどん低くなる傾向にあり,最近では上が120で下が80が正常で,それより高い数字は高血圧だと主張する専門家までいるほどだ。
かつては,血圧の上が160以上になると危険なサインと考えられていた。それがいつしか150以上になり,次に140以上の時代が長く続くことになる。そしてついに,130か120を超えると血圧を下げる薬を出されることもある時代に突入した。「高血圧」という新しい病気の誕生だ。
もちろん,非常に高い血圧を下げることで,助かった命がたくさんあることは間違いない。実際,高血圧の治療は,現代医学がなしとげた大きな勝利の1つでもある。とはいえ,最近の風潮は少し行きすぎではないだろうか。もはや病気の治療というよりも,新しい病気を生み出していると言ったほうが近いかもしれない。
何かおかしなことが起きているようだ。すべての人に理想的な数字を押しつけるということは,つまり大多数の人が「異常」に分類されてしまうことでもある。ほとんどの人が異常になるという状況は,やはり何かが間違っていると言わざるをえないだろう。
ハワード・S・フリードマン,レスリー・R・マーティン 桜田直美(訳) (2012). 長寿と性格:なぜ,あの人は長生きなのか 清流出版 pp.142-143
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