相手を虐げ,人間関係を操作することで発生する病気がある。この病気をひとたび患うと,関係解消をいくら試みようとも,被害者はその立場から逃げ出せなくなる。この病気を私はスロットマシン症候群と呼んでいる。スロットマシンで遊んだことがある人ならご存じのとおり,負けがこんでくるほどマシンのレバーから手を離すことが難しくなる。
なぜ,人がこの病にとらわれてしまうかにはおもに4つの理由がある。
まず,第1に大当たりの誘惑だ。誰もが飛びついてしまうチャンスとは,比較的少額の初期投資でありながら,きわめて効果なものを数多く手にできるかもしれないという期待だ。
第2に,投じた努力に見合う結果を得られるかどうかは,自分がそれに示した“反応”の程度にかかっている(行動主義の専門家が比率強化スケジュールと呼ぶもの)。スロットマシンでチャンスをものにするのであれば,どんどん“反応”(つまり金をつぎ込む)しなければならない。
3番目に,時折,サクランボなどの小当たりの絵柄がそろい,なにがしかの“勝利”がころがり込んでくる。この小当たりで,それまでの投資は無駄ではなくなり,投資をつづけていればさらに大きな報酬が得られるかもしれない。
4番目に,マシンにもてあそばれ,身ぐるみをはがされてその場を立ち去ろうとすれば,激しいジレンマに直面しなくてはならない。そのままマシンをあとにすれば大金がおき去りにされる。立ち去ることは“虐待者”に背を向けるだけでなく,多額な身銭を見捨てることも意味する。つぎ込んだお金とエネルギーに見合った成果どころか,くじけた心でその場を引き下がるのは容易なことではない。おそらくこんな言い訳で自分をごまかそうとするだろう。
「あともう1度だけ……」
ジョージ・サイモン (2014). 他人を支配したがる人たち 草思社 pp.129-130
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