解決しなければならない重要問題がもうひとつだけあった。装置の名称である。新聞記者たちは「嘘発見器」の呼び名をすでに使っていたが,装置は嘘そのものを発見するわけではないので(実際にはまさにそのために使われていたのだが),専門家たちはこの呼び名をきらっていた。キーラーが代案を求めると,チャールズが単純明快な名称として「感情(エモト)グラフ」という名称を提案した。キーラー自身はずっと前から,いろいろな意味合いを読みとれる「反応(レスポンド)グラフ」という名称に愛着を持っていた。最終的には「キーラー・ポリグラフ」に落ち着いた。「ポリグラフ」はこれまでも,体のさまざまな反応を記録する装置にたびたび使われてきた名称である。のちにラーソンは,この決定が転落のはじまりだと考えるようになった。人間の精神の健常な状態と病的な状態を探る研究が,「金儲けをねらった,機械を作るだけの」ベンチャー事業に成り果てた瞬間だったからである。ラーソンがやがて述べるように,「多くを記録する装置」という意味のごくありふれた名称は「なんら特別な意味を連想させない」巧妙なもので,キーラーの個人的な技量を際立たせるだけだった。
ケン・オールダー 青木 創(訳) (2008). 嘘発見器よ永遠なれ:「正義の機械」に取り憑かれた人々 早川書房 pp.130
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