冷戦期には核軍拡競争と平行して「精神支配競争」が起きていた。もし嘘発見器がアメリカの恐怖を映し出す鏡であるならば,冷戦期の政治家がそこに見いだしていたのはソ連によるマインドコントロールだった。CIAは全職員にポリグラフ検査を義務づけていたが,アメリカが開発しているのと瓜ふたつの科学的尋問技術を敵国も開発していると考えていた。嘘発見器,アモバルビタール,LSD,催眠術,電気ショック,ロボトミーなどである。
1950年代はじめ,CIAはブルーバード計画とアーティチョーク計画を秘密裏に実施したが,このとき敵国の工作員と思われる人物をポリグラフで徹底的に検査し,その結果を「口実」にしてもっと強引な尋問手段を用いた。これはもともとCIAの諜報員を守る目的で許可された計画だったが,すぐにその内容は拡大され,守りより攻めに適した手段の開発も組み込まれた。ポリグラフ検査技師は催眠術師も兼ねており,LSDやその他の薬物の自白剤としての効果を観察した。CIAはこうした計画を名目に使い,嘘発見器のさらに上を行く極秘の新しい尋問技術を——どれも嘘発見器と関係の深い技術だったが——開発し,被験者に強烈な心理的圧力を加えようとした。感覚を遮断する,つらい姿勢をとらせる,断眠を強制するなどの方法である。被験者の意思を打ち砕き,自尊心を奪って服従させるために編み出されたこのような心理的拷問は,冷戦期のCIAできわめて重要な尋問手段になり,今日の「テロとの戦い」にもさっそく利用されている。
ケン・オールダー 青木 創(訳) (2008). 嘘発見器よ永遠なれ:「正義の機械」に取り憑かれた人々 早川書房 pp.294-295
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