嘘発見器は科学から生まれたものではないから,科学では抹殺できない。嘘発見器のすみかは研究室でもなければ法廷でもなく,新聞印刷用紙であり,映画であり,テレビであり,それからもちろん大衆紙やコミックやSFである。経済学のもっと仰々しいことばを借りれば,嘘発見器は需要に主導されている。80年以上にわたり,脈動するホースと収縮する膜からなるポリグラフは,需要に応える「科学」を提供してきた。いまようやくポリグラフの時代は幕をおろそうとしているように見えるが,それは科学が変わったからではなく——それなら何十年も前に起きていた——人々が別の科学を信じるようになったからである。現状は混沌としている。職場での嘘発見器の使用ははっきり退けられたが,法廷はポリグラフの検査結果を証拠採用するよう圧力をかけられているし,アメリカの政府機関の多くは新しい嘘発見技術を進んで取り入れようとしている。
ケン・オールダー 青木 創(訳) (2008). 嘘発見器よ永遠なれ:「正義の機械」に取り憑かれた人々 早川書房 pp.341-342
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