「うん,だから,犯人を捕まえたらね,ただ,犯行を立証するだけにして,動機とか,そういう感情面のことはきいても,公表しない方が良いと思う。じゃないと,社会のみんなに理解してもらえるという,一種のご褒美を与えるようなものでしょう?」
「そういう考えもあるわね」小川は頷いた。「だけど,それじゃあ,裁判にもならないでしょう?あと,犯罪者であっても,人権はあるし,その人を更生させなきゃいけないわけだし,その責任が社会にあるわけ。となると,やっぱり事情を聞いて,理解してあげないと」
「そうか,そうですね」真鍋は頷いた。「そういう優しさが,必要とされているんでしょうね。だけど,連続殺人犯とか,凶悪犯になると,更生させるわけじゃなくて,死刑とか無期懲役とかになるわけですから,やっぱり,犯人を満足させてしまってはいけないんじゃないですか。そうしないと,同じことをする人間があとから出てきますよね。ああすれば,自分のことをみんなに聞いてもらえるんだって考えて,真似をする人が現れます。ありましたよね,そういうの」
森博嗣 (2014). サイタ×サイタ 講談社 pp.63
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