インフラの建設や看板の設置が必要な場所は当然あります。ただし,それには適切な整理と管理が欠かせません。
社会が必要とする施設を作る,そうでないものは作らない,施設を作る場合には,周辺の環境に与える影響や経済効果を調査して,きちんと分析する。また,老朽化した不要な施設は取り壊して撤去する。それらの仕事を,国内での慣習的な発注工事だけに頼るのではなく,諸外国の技術も巧みに取り入れて行っていく。それこそが先進国のあり方です。
公共事業にお金をばらまくと,経済効果は確実に出ます。その意味で,私は公共工事を減らすよりは,増やすほうがいいと思っています。
良し悪しは別として,日本の経済が建設業に依存してしまっている現状がある以上,急に補助金付きの公共事業をやめれば,致命的ともいえる社会混乱に陥ることでしょう。
ただし,公共事業はもう50年来「自動操縦」になっていて,何かを作るなら,高速道路,林道,ダム,新幹線,護岸工事,といった決まりきったパターンに固まっています。それより社会が本当に必要とするものにお金を投じ,「中身」を変えることが重要です。
これからの公共事業で大きな課題となるのは,「足し算」より「引き算」です。その観点で見れば,電線の埋設も,不要な施設の取り壊し・撤去も,巨額の費用が必要で,かつ,たくさんの雇用を生む事業となります。
実際,アメリカでは,この数10年で数百の不要なダムを取り壊しました。しかし日本では取り壊し作業はほとんど顧みられず,その結果,各地に醜い構造物,錆びた看板,閉鎖した工場などが溜まり,実に殺伐とした汚らしい光景が広がっています。日本は戦後の約70年で,見事なまでに国土を汚してしまいました。
アレックス・カー (2014). ニッポン景観論 集英社 pp.89-90
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