杉は木材として品質の低いチープなものですから,市場で人気がありません。植林事業が進められた時,杉だけではなく,桜,欅,栗,栃など,多様な樹木を用いていれば,世界で売れる木を育てられたのに,そうはなりませんでした。
私は古民家再生の仕事でインテリアのプロデュースも行っています。その仕事を通して,「日本はこんなに山が多いのに,使える木がない」ということに気付きました。エルム(楡)やウォルナット(胡桃)のダイニングセットは世界中で人気ですが,杉のダイニングセットを喜んで買いたがる人は,ほとんどいません。
こうした状況下で,杉の使い道として唯一残るのは公共工事です。最近では売れない杉をどうにかしなければいけないことから,駅や学校など公共施設に杉を使わせる行政指導が進んでいます。木造建築が増えるのはよいことですが,結局,補助金で植えた杉を補助金で建てる建造物に使う,という補助金サイクルに迷い込んでいます。
アレックス・カー (2014). ニッポン景観論 集英社 pp.120-121
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