フロイトはユダヤ人が誇り高いことも非難した。『創世記』および『出エジプト記』では神と選ばれた民であるイスラエルの人々とのあいだの契約が常に強調されている。つまり,ユダヤ人は無意識の去勢恐怖を引き起こすだけでなく,父なる神と特権的な関係をもっていると主張するずうずうしさも持ち合わせていることになるが,この時点ではフロイトはそのことについてあまり語っていない。
「私はあえて言明するが,おのれを父なる神の長子にして優先的に寵愛を受ける子であると自称する民族に対する嫉妬が,こんにちなお他の民族のあいだでは克服されていない。それゆえ,まるで他の民族はユダヤ人の自負の正しさを信じてしまっているかのようなのだ」——フロイトはナチスが勢力を持つ以前からこのことを考えてきたが,何年ものあいだこうした考えを表明しようとはしなかった。
デヴィッド・コーエン 高砂美樹(訳) (2014). フロイトの脱出 みすず書房 pp.60-61
PR