その少しあとにジェイムズ・サーバーとE.B.ホワイトが『セックスの代用としての6日間自転車旅行』という素晴らしい風刺文を発表したが,このタイトルが言わんとしているのは,ペダルをこぐことは自慰よりもはるかにましだということだ。サーバーはその後20年以上もの間,フロイトを揶揄し続けた。馬鹿げた治療的助言に満ちた本をかつぐような書評を書いたりしていたが,特に嘲りの標的としていたのが『神経症を喜べ』『成功する悩み方』『人生での成長』といった本であった。何百万というアメリカ人が心理的に抑制をかけられていて,幸福の科学を理解できないでいた。サーバーは分析の専門用語を知っていたので,多くの奥さんにとって,旦那さんの潜在的内容は十分明白である——とくに朝食の時には,などとジョークをとばしていた。彼はルイス・E・ビッシュという分析家のことをからかっていた。車に轢かれた「C氏」のような人々は無意識の動機を持っていて,性的飢餓が「C氏」を車の前に飛び出させてしまったのだとビッシュは示唆したのだが,そのことをサーバーは「疑いもなく性的重要性がある」といって揶揄したのである。『ザ・ニューヨーカー』誌に掲載された彼の風刺文は,1920年代や1930年代において精神分析がいかに影響力を持っていたかということを物語っている。
サーバーがフロイトの喫煙癖を知っていたならどんな文章を書いただろうかというのは,想像すると楽しいものである。
デヴィッド・コーエン 高砂美樹(訳) (2014). フロイトの脱出 みすず書房 pp.92
PR