フロイトはよく1日に20本もの葉巻を吸っていたが,その日のニコチン量が足りないと気分が良くなかった。
顎のガンと診断されたあとでさえも喫煙を続けた。葉巻なしでは著述が進まなかったことであろうし,禁煙しようと努力したこともなかった。
ジョーンズはフロイトになぜ喫煙するのかと尋ねたことがない。伝統的な分析的解釈では葉巻やタバコは「乳首の代用品」ということになるだろう。それなしで済ますことのできない人は口唇期——もっとも幼児期の段階——の発達段階で固着している。フロイトは娘のアンナと一緒にいる時の快感は良い葉巻を吸ったときの快感と同じだと書いている。葉巻はどちらかといえば乳首の代用品というよりも明らかに男根の象徴であるが,この文は父親としては実に奇妙な発言である。しかしながら,ジョーンズはこのことにコメントせず,分析的解釈も一切行わなかった。もし分析していたならば,ある種の象徴的レベルでフロイトが自分の娘を乳首として見ていたのかどうかについて奇妙な問題が生じていたことだろう!
デヴィッド・コーエン 高砂美樹(訳) (2014). フロイトの脱出 みすず書房 pp.93-94
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