『ファシズムの大衆心理』はナチスからもフロイトからも嫌われた点で格別な本であった。アンナ・フロイトは大方の人々よりもライヒとうまくやっていたが,それは「彼を怒らせたりせずに,うまく扱おうとしていたからです。それで少しはうまくいきましたが,彼が正気の人だったらなおうまくいったことでしょう。でも彼はそうではありませんでした」と言っている。
しかしライヒの犯している危険から判断すると,彼は狂気というにはほど遠かった。そうした問題について以前には書かなかったのは,「単に結果が怖かったのです。何度も自分の考えを紙に書きとめることを躊躇してきました」と言っている。いったんナチスが勢力を握れば,「現在の状況からみて,とてつもなく危険な可能性を秘めている」ので,彼はこの本が出版される前にドイツを去った。今日ではこの本を古典として見るものもいる。
デヴィッド・コーエン 高砂美樹(訳) (2014). フロイトの脱出 みすず書房 pp.140
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