世界と日本の高齢者心理学の歴史をざっと見ましたが,大きなテーマに「高齢者がどう生きると幸せなのか」というものがあります。1960年代から70年代にかけて,大きく分けると2つの流れができ,論争が続きました。
1つは「活動理論」,もう1つは「離脱理論」です。
「活動理論(アクティビティ・セオリー)」というのは,高齢者になっても若いころの活動をそのまま維持して,活動的に積極的に生活するほうが幸せであるという考え方です。いわゆる「生涯現役」の考え方です。
それに対して,「離脱理論(ディスエンゲージメント・セオリー)」は,若いころよりも活動能力が落ちるのだから,社会から少しずつ引退し,離脱していって,若いころの生活とは違う穏やかな生き方をするほうが幸せであるという考え方です。
1960年代以降に,活動理論と離脱理論の双方の研究者が多くのデータを出して,「こちらの生き方のほうが幸せだ」「いや,ことらのほうがより幸せだ」という論争が続きました。
1980年代の半ばごろになると,論争は活動理論のほうが優勢になっていきました。新たな理論として,ロウらが「サクセスフル・エイジング(幸福な老い)」という考え方を提唱しました。
サクセスフル・エイジングは,高齢期のより幸福な生き方を目指すものですが,健康状態をなるべく保ち,社会貢献的な活動を維持することが幸せな老いにつながるという考え方で,活動理論と根を同じくする考え方です。このサクセスフル・エイジングの考えは,アメリカ人の価値観にとても合っており,欧米で非常に普及していきました。
このように1980年代になると離脱理論よりも活動理論のほうがさらに優勢となり,「活動理論のほうが高齢者にとって幸せだろう」ということで論争が落ち着いていきました。
1980年代頃までには,医療もかなり発達し,病気を予防し健康を増進できるようになり,現役として活動できる年齢を伸ばせるようになりました。その結果,「生涯現役」が多くの人の目標になり,「何歳になっても社会参加して活動を続けよう」と考える人が主流になっていきました。アメリカでは,「プロダクティブ・エイジング」や「アクティブ・エイジング」などの様々な言葉が出てきています。
こうして活動理論的な考え方はいわば当たり前のものになりました。「生涯現役を目指すんだ」という人が非常に増えていったのが,1980年代から2000年くらいまでの流れです。
増井幸恵 (2014). 話が長くなるお年寄りには理由がある:「老年的超越」の心理学 PHP研究所 pp.45-47
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