様々な面で,若い時との違いが出てくる中で,環境の変化にうまく適応していくためには,若いときとは異なる新しい方略が必要になります。これをうまく説明したのがバルテスの提唱したSOC理論です。
人生の中では獲得するものと喪失するものがあり,それらが相互作用して発達していきます。高齢になると,様々な機能が低下し,できないことが増えていき,喪失が増えていきます。しかし,一方的に失われるばかりではなく,高齢になっても獲得するものもあります。両者を相互に織りなしながら年齢を重ねていくというのがバルテスの考え方です。
しかし,加齢とともに喪失が増えていくことは確かですから,若いころのように「これもしたい」「あれもしたい」と思わないで,一定の喪失(ロス)を前提に環境への適応の仕方を見つけていこうというロス・ベースの考え方を基盤としています。
ロスを前提とした方略の1つがSOC(補償を伴う選択的最適化,selective optimization with compensation)です。SOCは,選択(selection),最適化(optimization),補償(compensation)の頭文字を取ったものです。SOC理論は,能力や環境の変化に対して,どのように生活をマネジメントし,適応を果たしていくかという方略を示しています。
増井幸恵 (2014). 話が長くなるお年寄りには理由がある:「老年的超越」の心理学 PHP研究所 pp.55-56
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