エリクソンが8段階の心理社会的発達段階を提唱した1950年代とは社会状況は大きく変わりました。1990年代にはエリクソン自身も90歳近い年齢になっており,彼は第9段階というものを想定し始めたようです。
第8段階までは整合性のとれた,統合された世界観です。最後の最後に1つのジグソーパズルが完成するように人生が作られていくというストーリーになっています。
しかし,80歳を過ぎて心身の機能が衰えて,寝たきりのような状態になったとしたら,きれいに完成された世界は意味がなくなるのではないか,という考えに至ったようです。自身も80歳を過ぎ,人生には第8段階に続く新たな段階があるということに思い至ったのだろうと思います。それが第9段階のアイデアです。
この第9段階にあたる80歳から90歳以上では,身体機能や健康状態は大きく悪化し,同年代の知人や友人の死亡により社会的ネットワークも非常に小さくなっていきます。たとえ,第8段階において統合性を達成した者であっても,新たな絶望に見舞われると予想したのです。
一方,エリクソンはこの重篤な危機は,自分と自分を取り巻く人や環境に対する基本的信頼感をもう一度獲得すること,また,トルンスタムが提唱した老年的超越の獲得により乗り越えることができるのではないかという予測もしています。
平均寿命が80歳の時代には,第8段階からさらに10年,20年と生きることになります。第8段階が必ずしも最終段階ではなくなったのです。エリクソンの妻のジョアン・エリクソンが,第9段階について整理をして,夫の死後に発表しています。
増井幸恵 (2014). 話が長くなるお年寄りには理由がある:「老年的超越」の心理学 PHP研究所 pp.87-88
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