立候補者の政策方針を明確に知るという点でも,やはり惨憺たるものだ。2000年の大統領選挙——ジョージ・W・ブッシュ対アル・ゴア——の直前におこなわれたある研究では,ふたりの候補者の方針に関して12の質問を国民にぶつけた。たとえば,「ブッシュは所得税の大幅な削減に賛成するか,反対するか?」,「処方箋の費用もカバーするような引退者の医療保障の拡充に,ゴアは賛成するか,反対するか?」といった質問だ。12個の質問の中で,高正解率だったのは,ふたつだけ。すべての質問にきちんと答えられた人は,半分もいなかった。それより最近の選挙でも,実験によって選挙の争点に関する有権者の無知が明らかになっていて,その傾向は今も変わっていない。立候補者や選挙参謀は選挙活動に30秒間のCMを利用することがよくあるが,短いCMで主要な問題を取りあげることはまずない。そんなCMだけでは有権者が知識を得られないのはあたりまえだ。
公民科の基礎的な知識も乏しく,各候補者の政策方針の差もわからないとなれば,有権者はどうするのだろう?大半の人はこの世に生きる素直な人がすることをする。ヒューリスティックに頼るのだ。ヒューリスティックとは複雑な問題を解決する際に,簡単で手っ取り早い方法を取ることだ。政治に関しては,誰に投票するかを所属政党で決めたりする。
マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.164-165
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