ひとつわかりやすい例をあげてみたい。平泳ぎの北島康介選手を知らない人(たとえば火星人)が科学的に北島選手のカラダを解析して,筋肉の構造などを徹底的に科学的に理解しても,北島選手がいったいどのスポーツで金メダルを取ったのかはおそらくわからないと思うのだ。北島康介選手の肉体のすごさは,当然ながらその筋肉を研究すればある程度わかるだろう。そして,その筋肉を研究すればアスリートとして一流ということはわかるだろう。しかし,平泳ぎで世界一ということまではわからないはずだ。もちろんこれは推察にすぎないが,たぶんわからないだろうと思う。なぜなら,北島選手のすごさは物質としての筋肉にあるのではなく,それに支えられてはいるものの,それとは独立した「平泳ぎの泳ぎ方」であるからだ。北島選手の能力は物質に支えられているが,その本質は物質からはわからない。重要なのはメカニズムなのだ。
妹尾武治 (2014). ココロと脳はどこまでわかったか?脳がシビれる心理学 実業之日本社 pp.189-190
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