いくつかのスキルにかんして,知能至上主義の背後にある単純な計算——大事なのは早くはじめてたくさん練習することである——には確かに根拠がある。バスケットボールの試合でフリースローを落としたくなかったら,毎日の午後の練習で二百本のシュート練習をするほうが二十本しか練習しないよりもずっと上達する。たとえば4年生なら,夏のあいだに四十冊の本を読めば四冊しか読まないよりも読解能力は伸びるだろう。機械的に向上する技能もあるというのは事実だ。
しかし人間の気質のもう少しデリケートな要素を伸ばすとなると,ものごとはそう単純ではない。長時間懸命に取り組んだからといって失望を乗りこえるのがうまくなったりはしない。充分に早いうちから好奇心のドリルをやらなかったからという理由で好奇心の足りない子供に育つわけでもない。このような気質を身につけたり失ったりする方法は決してランダムではない。心理学者や神経科学者たちは,ここ数十年のあいだこうした気質がどこから生じ,どうやって伸びるのかについて研究を重ねてきた。だがその方法は複雑で,非常に謎めいている。
ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.16-17
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