回答を一覧にまとめたときにアンダとフェリッティがまず驚かされたのは,おおむね恵まれているこの層のなかにも子供時代のつらい思い出を持つ人が多いことだった。回答者の4分の1以上がアルコール依存症患者やドラッグ常習者のいる家庭で育ったと答えていた。子供のころに叩かれた,と答えた人数もほぼ同じ割合だった。アンダとフェリッティはこのデータを使ってそれぞれの子供時代の逆境(ACE)を数値化した。ひとつのカテゴリーにつき1点を加算していく。その結果,3分の2の人々に1点以上がつき,8人にひとりは4点以上がついた。
ふたりがさらに驚いたのは,カイザー社が集めた該当登録者の膨大な医療履歴をACEの数値と比較したときだった。子供時代の逆境と成人してからのネガティブな結果のあいだには非常に深い相関関係があり「唖然とした」と,のちにアンダは書いている。さらに,この二者の関係は目をみはるほど直接的なものだった。ACEの数値が高ければ高いほど,成人後も常習行為から慢性疾患にいたるまでほぼすべての項目でより悪い結果が出ていた。アンダとフェリッティはデータから次々に棒グラフをつくったが,どれもおおよそおなじかたちになった。グラフの底辺,つまりX軸にはACEの数字をふり,Y軸には肥満,鬱,性行為開始年齢,喫煙歴などの項目をあてた。どの表でも一貫して,棒グラフは左(ACEの数値ゼロ)から右(とくに7以上)にいくにつれて確実に伸びた。ACEの数値が4以上の人々は子供時代に逆境がなかった人々にくらべて喫煙率は2倍,がんの診断を受けた率は2倍,心臓病は2倍,肝臓病も2倍,肺気腫や慢性気管支炎を患っている率は4倍だった。いくつかの表ではグラフの伸びがことに顕著だった。ACEの数値が6を超える成人は,ゼロの人々にくらべて自殺を試みたことのある割合が30倍にのぼった。そしてACEの数値が5を超える男性は,ゼロの男性にくらべて46倍という確率でドラッグを注射したことがあった。
ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.40-41
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