ダックワースはウォルター・ミシェルと共同研究をはじめた。ミシェルはコロンビア大学の心理学の教授で,社会科学の研究者のあいだではいわゆるマシュマロ・テストの研究で有名である。1960年代後半,当時スタンフォード大学の教授だったミシェルは4歳児の自制心をテストする独創的な実験を考えだした。スタンフォードのキャンパスにある保育園で,子供をひとりずつ小さな部屋に連れていって机の前に座らせ,マシュマロなどのおやつをさしだす。机の上には呼び鈴がある。実験者は,これからちょっといなくなるけどわたしが戻ってきたらそのマシュマロを食べていいわよ,と告げる。そのとき,子供に選択肢を与える。マシュマロが食べたくなったら呼び鈴を鳴らせばいい。そうすれば実験者は部屋に戻り,子供はおやつを食べられる。ただし,実験者が自分から戻るまで呼び鈴を鳴らすことなく待てたらマシュマロはふたつもらえる。
ミシェルは誘惑に抵抗するために子供たちがそれぞれに使う方法を研究するつもりでこの実験をおこなった。しかしその後10年以上が経ち,褒美を我慢する能力が子供たちの将来の成果とどう関連するかを調べはじめると,新たな側面が見えてきた。1981年の時点で見つけられたかぎりの生徒の追跡調査を実施したところ,マシュマロを我慢できた時間とその後の成績の相関には目をみはるものがあった。おやつを15分我慢できた子供たちの学力検査の得点平均は,ものの30秒で呼び鈴を鳴らした子供たちの平均を210点も上まわった。
ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.109-110
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