パーソナリティ心理学の領域で,勤勉性の研究の第一人者といえばブレント・ロバーツである。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教授で,経済学者のジェイムズ・ヘックマンや心理学者のアンジェラ・ダックワースとも共同研究をしたことのある人物だ。ロバーツの話によると,1990年代後半に彼が大学院を出て専門の研究分野を決めようとしたときには,勤勉性の研究をしたがる者などひとりもいなかったらしい。ほとんどの心理学者が,勤勉性は,パーソナリティ分野の「厄介者」であると思っていた。多くはいまでもそう思っている。文化の問題だ,とロバーツは説明する。「性格」という言葉とおなじように,「勤勉性」という言葉にも,強い,そして必ずしもよい意味でない連想が働く。「研究者というのは自分が価値を置くものについて研究をしたがるものです」とロバーツはわたしにいった。「勤勉性を高く評価するのは知識人でも学者でもない。リベラルでもない。宗教色の濃い保守派で,社会はもっと管理されるべきだと思っている人々です」(ロバーツによれば心理学者が好んで研究するのは「未知のことに対する開放性」だそうである。「開放性はクールですからね」と彼は少しばかり悲しそうにいっていた。「独創力についての研究だから。それに,リベラルのイデオロギーともいちばん強い結びつきがある。パーソナリティ心理学の世界にいる人間はほとんどがリベラルなんですよ。いってしまえばぼくもね。学者は自分たちのことを研究するのが好きなんです」)
ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.120
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